2024-05

シゴト

アラザンの眼をした妖精

別室には別種類のホルマリン標本があった。見てはいけないものを見てしまった。胎児と言おうか嬰児と呼ぶのか、それからまだ小さな小さな妖精の標本もある。映画の話ではない。現実なのだ。身長が3㎝に満たないものから20㎝近くのものまである。大きいのは...
シゴト

ホルマリン漬けされた心臓の叫び

この弓部置換をした心臓。一度は助かったのか。どれくらい持ったのであろうか。でもここに心臓があるということは、結局は死んだんだよな。手術場で心拍が戻らなくてもPCPS(補助人工心肺)をつけてICUに帰すから、オペ室では便宜上は亡くならない。あ...
シゴト

心臓外科手術の修羅場

この心臓は動脈硬化と石灰化がひどい。もちろんDissection(解離)を起こしたんだから当然だが。予想以上だ。うまくグラフトがつなげるか。石灰化の軽い場所がなかなか見つからない。やっとのことでなんとか縫合出来た。ところが今度は針孔からの出...
シゴト

ホルマリン漬けの年金生活者

その部屋は直射日光を遮断する地下にあった。とびらを開けると、かすかにホルマリン臭が漂う。ガラス瓶に密閉していても多少は気化するらしい。ホルマリン漬けにされていたのは何十体ものクスリ漬け年金生活者。各ガラス瓶に1体ずつ彼らの心臓が保存されてい...
ベント

年金生活者のシバオ君 6

すぐにかかりつけ医院に行き、主治医にレカネマブの処方を希望するが、イヌ用はまだ承認されていないという。納得のいかない話だ。ヒトに使う前にイヌで試して効果を確認しているはずだが。さらに処方するには、認知症テストや脳のMRIを撮らないといけない...
ベント

年金生活者のシバオ君 5

やがてシバオ君は病気ひとつせずに、順調に年輪を重ねて行った。いつの間にか15歳を迎えた。人間でいえばカジマヤーである。獣医も驚いていた。「まめ柴はそもそも短命なのだが凄いね」毎年、ワクチン接種するたびに腰を抜かしていた。もちろん食事には気を...
ベント

年金生活者のシバオ君 4

シバオ君は毎年検診を受けて、8種混合ワクチンを接種していた。もちろん狂犬病の予防注射もだ。そして毎月フィラリア予防の内服薬を飲んでいた。ほぼ毎日、主人との散歩も楽しんだ。だから病気にもならず元気に一生を過ごした。家族の誕生日を一緒に祝い、一...
ベント

年金生活者のシバオ君 3

信州の山奥からやまんばが来た。92歳だ。こんなにも歳の差があって、はたしてシバオ君とうまく暮らして行けるのか。しかし杞憂に終わった。里に不慣れで孤独なやまんばをシバオ君が必死に癒してくれた。それも24時間つきっきりで。やまんばの虚ろな眼をシ...
ベント

年金生活者のシバオ君 2

シバオ君は家族みんなに愛されてスクスクと育っていった。庭に投げられたボールを一目散に得意げに拾って来たり、放課後は年長組と追いかけっこをしたり、自由時間は芝生に寝ころんで日向ぼっこをしたり、本当に幸せそうだった。毎朝のウオーキングにもかかさ...
ベント

年金生活者のシバオ君 1

クスリ漬け年金生活者にはかつて児がいた。シバオ君は0歳児の時に、「親こぼし学園」から今の家に引き取られて来た。何人もの児がオリの中で騒いでいる中、シバオ君だけが行儀よく、うつむいて親が来るのを静かに待っていた。何もしゃべらない。だから親にな...