セイシンカ 座敷牢からの救出 それは、はなれの土蔵だった。窓はすべてに鉄格子が打ち付けられており、出入り口の扉の小窓だけが開いていた。扉には外から大きな鍵が、ぶら下がっている。何歳から入れられていたのか、さだかではない。救出した時、千里は26歳。青白い痩せた青年だった。... 2023.06.15 セイシンカ
セイシンカ トリアージ 精神科研修医は1年の研修を終えて大学へ帰って行った。風のうわさによると大学を辞めて、姉と結婚したという。あとから来た後任の指導監督医が教えてくれた。誰にも知られていない遠くの街に引っ越すとのこと。研修医が大学に戻るのと時を同じくして、姉はも... 2023.06.11 セイシンカ
セイシンカ 勇二の世界 指導監督医は研修医のことで頭を抱えていた。患者を診るどころではなくなっていたみたいだ。勇二の掘ったほら穴は、見たこともないような深いものだった。呼んでも声も届かない。姿も見えない。これでは、プロでも戻っては来れまい。研修医と勇二は、深い、深... 2023.06.09 セイシンカ
セイシンカ 穴に落ちた研修医 私の目の前で穴に落ちてしまった研修医も知っている。助けようがなかった。患者は勇二18歳。彼は精神分裂病(当時の病名)と発達障害で入院していた。小学校を出たのかどうか、入院までの経緯はわからない。明るいし、よく話す。腕がへんなところで曲がって... 2023.06.07 セイシンカ
セイシンカ 穴に落ちてごらん こちらが手を滑らさなくても、中を覗き込んでいる時に、相手が近くまで来て中に引きずり込むかもしれない。こんな危険な職場では、怖くて働けない。ここに配属されたら、最初みんなそう思うという。でもある先輩が言っていた。「怖がらないで一度ほら穴に落ち... 2023.06.05 セイシンカ
セイシンカ ほら穴 いくつもの垂直なほら穴が見える。みんなほら穴の底にいる。ほら穴の大きさは声の届く浅いものから、底の見えない深いものまである。深いほら穴だと底は見えないし、声も届かない。ひとはふつう、見通しのきく小高い丘か平地にいる。とこらが、他人からの視線... 2023.06.04 セイシンカ
セイシンカ ファンタジーな世界 たしか、セレネースとアキネトンはセットで筋注されていたと思う。社会から隔離された、その非現実的で限りなくファンタジーな世界は、朝のラジオ体操第1から始まる。申し送り前だったのか、あとだったのか、はっきりとは記憶にない。でも深夜勤だけだったら... 2023.06.03 セイシンカ
コキョウ 猟銃と姨捨山 久しぶりに出社(社会に出ること)すると、周りは事件の話題で持ち切りだった。故郷と事件現場が近いことから、あらぬ所で、あらぬ疑いが持たれていた。「事件があったのは、あんたの部落かい?」「あんた今までどこ行ってただ?」ブタの先輩が代表して聞いて... 2023.06.02 コキョウ
プール 水中都市 プール漬け年金生活者は進化を遂げて、やがて水中人間となっていく。その朝は遅い。一番ゼミが鳴きやむ頃に起き出す。水中ウオーキングに人生のすべての活路を見い出しているので、地上での早朝ウオーキングなど、見向きもしない。というよりも彼らは、もう進... 2023.06.01 プール
プール 県警本部長 あとでわかったことだが、ブタの先輩はここいら一帯を取り仕切る、プール漬け年金生活者の集団の長(おさ)であった。よく観察すると、プールに来た年金生活者の誰もが、彼に頭を下げてあいさつしている。いろいろと相談したり、話し込んだりしている。スタッ... 2023.05.31 プール