信州の山奥からやまんばが来た。92歳だ。こんなにも歳の差があって、はたしてシバオ君とうまく暮らして行けるのか。しかし杞憂に終わった。里に不慣れで孤独なやまんばをシバオ君が必死に癒してくれた。それも24時間つきっきりで。やまんばの虚ろな眼をシバオ君のあどけない目がみつめている。そしてシバオ君は気持ち首を右に傾ける。静かに時間だけが過ぎる。
やがて、やまんばの右の手に、シバオ君が左手をちょこっと置く。こころが通い合う。やまんばの虚ろな眼が少しだけ微笑んだ。シバオ君はちゃんとスキンシップも取ってくれているのだ。素晴らしい。やまんばの枯渇したオキシトシンとセロトニンを充填してくれていた。それもシバオ君の人生の大事な役目だったのだ。
しばらくすると、やまんばはやまんばのおやつをシバオ君にあげるようになっていた。あれほど「あげないで」と注意しておいたのに。シバオ君が喜ぶかららしい。そして味を覚えてしまって、ねだるかららしい。やまんばは認知症だから、言ってもわからない。二人きりになると、どんどんあげた。やがてチョコレート、せんべい、クッキー、パイなどがシバオ君の大好物となってしもうた。
こうして大のなかよしとなった、やまんばとシバオ君だが長くは続かなかった。やまんばはもう家にいない。シバオ君が止めるのも聞かずに、夜中の2時に突然ヘルメットを着けて散歩に出かけてしまったのだ。そしてそのままもう二度と帰って来ることはなかった。あとになって、やまんばは遠くの精神病院に収容されているのがわかった。
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