年金生活者とエントリーのビーチ

プライベートビーチ

慎重に少しずつ前進する。突然岩穴から何十匹ものカニが走り出て来る。まちがって踏みでもしたら、足が滑って海中に転落する。やっと止まっていた手の傷からまた出血し出した。必死で岩を握っているからだ。しばらく行くと、案の定、岩が途切れている。次の岩までジャンプするしかない。海中に入ったら最期、急流にのまれてしまう。勢いをつけてジャンプした。下半身を向こうの岩に激しくぶつけたが、なんとかしがみついた。

また大波が来る。すぐに体勢を立て直し、岩にしがみついてやりすごす。波が来ないのを見計らって、慎重に、慎重に進んで行く。岩の途切れているところは、こうして必死のジャンプを繰り返しながら進んでいく。心の中では「神よ、私に力を!」「神よ、私に力を!」と何度も叫んでいた。

もし岩場がジャンプ出来ないほど、離れていたらそこまで。もう進めないし、戻れない。干潮時刻はとうに過ぎているから、潮は満ちて来るのみ大波は高くなり近づくのみ。そして私は、そこで死を待つのみだ。岩場が途切れることなく、干潮で浮かび上がっていることを祈りながら、エントリーしたビーチをめざし岩場を進んだ。

幸い大きな波も足もとまでしか来ない。「もしかしたら奇跡的に戻れるかもしれないぞ」少しずつ胸が高鳴って来た。それにしても、いくつもの岩場をこえても、まだエントリーしたビーチが見えて来ない。おかしいぞ。そして最後の大きな岩のカーブを曲がった時、遠くにエントリーしたビーチが眼に入った。なつかしい。24時間ぶりに見るビーチだ。「助かった!」と心の中で叫んだ。

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