クスリ漬け年金生活者はチチカカ湖を目の前にして体力の限界を向かえていた。呼吸が苦しい。酸素がないのだ。プーノまではなんとかたどり着いたが、そこから船着き場まで歩けない。全世界からやって来た年金生活者も同じ運命をたどるようだ。なんせ標高が富士山よりも高い。3827mもある。でも途中の標高4335mのアンデス最高峰ララヤ峠越えが最もきつかった。あれから調子がおかしい。
高山病で命を落とす年金生活者もめずらしくないという。なんせ日本から48時間以上もかかっている。疲労困憊である。なんとか復活しなければ。ここまで来てチチカカ湖に沈むわけには行かない。いつものようにクスリ漬けで乗り切るか。まずは酸素だ。船に常備されている酸素ボンベを使い100%酸素を吸入した。この際だからCO2ナルコーシスなど気にしていられない。見るとどの船上でも年金生活者が酸素吸入しながら耐えていた。みんな同じなんだ。そう思うとにわかに力が湧いてきた。
そして持参したダイアモックスを服用。高山病の特効薬である。さらに売店で酸素缶7本を購入した。これは心強い味方である。みるみるうちに血色がもどり、立ち上がることが出来た。復活した。チチカカ湖へ船を出す。しかし船のエンジン音がおかしく真っ黒い煙を出している。話によると、エンジンも酸素濃度が低いので不完全燃焼しているのだという。途中でエンジンが止まるかと心配だったが、トトラの浮島ウロス島をめざす。
ウロス島では平和な家族が迎えてくれた。一家族が一つの浮島を作って暮らしている。小さな子供たちが日本の歌を唄って歓迎してくれた。そして元気に小さな浮島を走り回っている。自分達だけで船も出すようだ。低酸素に順応したDNAを持つ民族だ。電力はすべての家でソーラー発電をしていた。日本よりも進んでいるではないか。浮島は毎年作り直さないと沈むらしい。日本からは想像出来ない時間が止まった別世界が、富士山よりも高い天空チチカカ湖に広がっていた。
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