ヤギの草刈り

セイシンカ

精神科閉鎖病棟では、二度と人を殺めることのないようにと、命の尊さを教えている。生き物を育てながら、毎日世話をすることで、愛情を持たせて命の尊さを学ばせるのである。そのためヤギを5匹飼育している。まだ秋ではないので、5匹全部残っている。人を殺めるより育てることの充実感を教えて行くのだ。

この病棟の収容者の約7割が過去に人を殺めている。しかも精神科、人を殺めても刑事罰は処されない。すなわち無罪。だからスタッフはいつも命懸けである。

命懸け作業の代表的なものが、ヤギの草刈りである。飼育しているヤギのエサを山へ草刈りに行くのだ。6人乗りライトバンにスタッフ一人、患者5人で1台で行く。護衛車両なんていない。あの頃だから、携帯もない。

作業に参加すると、たばこ、飲み物、菓子パンがもらえる。それよりも、なにしろ、シャバの空気が吸える。だから毎日希望者が殺到する。「いきものかかり」の当番となったスタッフは人選に迷う。誰を連れて行くかに、自分の命がかかっているからだ。もちろん全員が殺人の経験者だ。怖い。

いざ出発だ。もちろんカマは現地に着くまで、6本まとめて新聞紙でくるみ、ロープでグルグルまきにして、持って行く。みんな楽しそうでワキアイアイとしている。緊張しているのは、私だけか? やがて山林に着いた。ロープをほどいて、もと殺人者にカマを1本1本渡していく。このカマで親の首をはねた収容者も、今日連れてきた中に2人いた。

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