故郷に帰ることの出来なかった六号坂のアヒルたち何匹かが、再び集結したのは、その年の4月上旬だった。みな現ナマ¥1,000,000とやる気を持って来た。今度こそは失敗は許されない。現ナマ¥1,000,000は言わずと知れた親が準備した、なけなしの金である。親に泣きついて準備した金だ。
今度こそ無駄にするわけには行かない。昼の稼業よりも、夜の本業に本腰を入れるつもりなのは言うまでもない。みな決意だけは固かった。一年下のクラスに入るのは最初違和感があったが、年上も多数いてすぐに慣れた。江東診療所でのアルバイト勤務も決まった。これで研修実績の資格認定がもらえる。
そして六号坂からは卒業した。地下に潜った京王新線から小田急線に乗り換え、向ヶ丘遊園と多摩川を越えた。悪友から離れるのと、家賃・駐車場の節約のためだ。秋津・横須賀と心は移ったが、結局向ヶ丘遊園に落ち着いた。診療所でのバイトが決まるまでは、時給の高い駅前のパチンコ屋でバイトをして生活費を稼いだ。
忙し過ぎて思い出せない夏だった。あっという間に秋を迎えた。もう国家試験の願書の受付が始まる。そうして年内で昼の稼業から足を洗い、受験対策に本腰をいれた。毎日、暗記と模試の日々だった。年末、年始もなく3月3日に卒業決定者の発表。14日の国家試験と目まぐるしい。国家試験合格を条件に、西新宿の大手組織に就職も内定していた。
コメント