それは、はなれの土蔵だった。窓はすべてに鉄格子が打ち付けられており、出入り口の扉の小窓だけが開いていた。扉には外から大きな鍵が、ぶら下がっている。何歳から入れられていたのか、さだかではない。救出した時、千里は26歳。青白い痩せた青年だった。なぜこんなことに、なってしまったのか?
かつて精神病患者は、狐憑きや狸憑きなどの憑依、もしくは「一族の祟り」といった霊的存在の業であると信奉されて来た。そして、それを「身内の恥」とし「表に出すことなく隠秘すべし」とした日本特有の伝統的倫理観により、座敷牢が形成されたと、言われている。そして「私宅監置」の名のもとに合法的とされた。
当時は入院を受け入れることの出来る精神病院も数少なく、また精神疾患に対する人々の理解も低かったのが、原因と思われる。不幸な過去の現実と捉えたいが、同様なケースの事件が昨今ニュースで報道されている。
いったい彼は過去にどんなことを起こしたのか。何十年も前に起きた小さな山奥の部落での出来事。身内は絶対に語らないし、警察も調べていない。ただ部落の長(おさ)の話によると、「身内の誰かをあやめたらしい」とのことだった。 私宅監置は1950年の精神衛生法の施行によって禁止とされたが、当時米軍統治下にあった沖縄だけは禁止の対象とならなかった。このため、特に離島においては、つい最近まで行われていた。
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