暑かったあの夏

ブレイク

昼近くには気温が30℃を超える。線路にかげろうが立つ。列車がかげろうの中に揺れながら小さくなって行く。列車の音が遠ざかると、急にセミ鳴き声がけたたましくなる。篠ノ井線、白板近くの踏切か。線路枕木下に敷き詰められたアスファルトの匂い。溶けそうだ。

炎天下、クスリ漬け年金生活者は手際よく、線路わきに昨日置いたプレパラートを交換していく。線路わき、山、庭、たんぼ、工場周辺、道路沿いと自転車を走らせる。環境別に調べて流星塵を探し出すのだ。夏休み自由研究だ。

2時間近くかかったか。今日は自宅へもどると、なぜか平日なのにステテコ姿の達雄がいた。禿げあがった額を浮かべ、うちわでしきりに仰いでいる。いったん立ち上がってこちらに来ると、すぐまた戻って座った。「ほう、流星塵の研究か」ぽつりと言った。孝子が冷やしソーメンを作っている。

遠いあの夏の日にはクーラーなんかない。もっぱら扇風機だ。あとは、うちわで仰ぐ。日も傾けば気温は下がる。顕微鏡を覗くのは、それからにしようか。隣の部屋のマットレスに寝転んで、扇風機の風を独り占めする。キャンディーズの「暑中お見舞い申し上げます」が流れていた。

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