もと県警本部長の安否は不明だった。ここ最近、その姿を見たものはいない。部下もかたくなに口を閉ざしたままだ。いたずらに月日だけが経っていく。不安と焦燥がプール漬け年金生活者を襲う。あの雄姿はもう見ることが出来ないのか。あの雄姿に生きる勇気をもらっていたプール漬け年金生活者も多かったのに。
しかし、あまりにも一般市民からの問い合わせの多さに、プールの係員も値を上げたのだろう。ある時、館内の掲示板の隅に、遠慮がちに小さな張り紙があることに気付いた。「昆布茶よ 今も元気で かぜが吹く」
この暗号めいた句。なんと解釈すればいいのか。係員側も個人情報をあからさまに会員に漏らすわけにはいかず、係員会議を重ねたのち、本人の了解も得て、この句に決定した模様だ。どのように読み解くかは、「本人の自己責任で」とのことで、個人情報保護の観点から、係員はこれ以上の説明は一切拒んだ。
そこで失踪について詳しい、もと警察庁OBで今は軍事顧問会社代表の御手洗(みたらい)氏に解説を依頼した。氏の解説によると、「昆布茶」とは疑いもなく「本部長」と読み解くことが出来る。さらに「風」と「風邪」を組み合わせて、なんとも微妙な韻を踏んでいるとのこと。「本部長は、風のように消えたが、今も元気で生きている。心配しなくてもいいよ。ただ風邪をひいたので、しばらく休みます。」と。正確に読み解けた者は、2023年末ゴジラ-1.0の上映される街に安堵した。
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