吟醸君も同期であった。しかし彼は気遣いが上手で、上司のご機嫌をとるのも得意だった。人の嫌がる仕事も進んで受け入れこなして行った。そのうち上からも大きな仕事を任されるようになる。だからクスリ漬け年金生活者は、吟醸君が嫌いだった。いつも上司にゴマをすっているかのように見えるからだ。
だから彼に話したことが、そのまま上司へ伝えられるのではないかと疑ってしまい、本音で話すことが出来なかった。やがて吟醸君は上層部に認められ、ついに主任に昇進した。若くして異例の昇進だった。「昇進おめでとう」上司が吟醸君に話すのを、背中で聞いた覚えがある。
吟醸君はたくさんの責任ある仕事を任された。それを不平・不満も言わず全て一人で引き受けていた。さらなる上司の期待に応え、出世への道を邁進しているかのようだった。ただ上司を第一と考え、同僚を第二とすることで、友人は少なかったように思う。
ある朝、吟醸君は来なかった。病休だという。「めずらしい、彼も休むことがあるんだ」皆は口々にそう言った。ところが、1週間経っても、2週間経っても出社しない。「さっき入り口で見たけど。そのまま帰ったのかな?」朝だけ会社付近で見かける人もいたが、出社はしない。病休のままだ。
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