競い合った吟醸君 3

シゴト

上層部コネを持つ社員から情報を得た。重症な「鬱病」らしい。予感はしていたが、はっきり断言されると、にわかに信じがたい。あんなにテキパキと、人の倍以上の仕事をこなしていたのに。食事がとれず、も飲めず、不眠が続き、10㎏も体重が減ってやせ細ってしまったらしい。

そして動けずに、一日中ふとんから出られないとのこと。最近は「呼吸をするのもつらい」とを流しているという。そして「皆に迷惑をかけて申し訳ない。死んでお詫びするしかない」と自死をほのめかしているという。全く想像もしていなかった壮絶現実である。

まるで、あの「赤城ファイル」そのままである。ひょっとして医療事故でも隠蔽するようにと、上層部から圧力がかかったのか。首吊りは何としても防がなければならない。皆で相談した。しかし専門家に意見を聞くと、今は会わない方がいい。連絡もしてはいけない。絶対に励ましてはいけない。逆効果だとのこと。

そして「鬱病はこころの風邪」みたいなものだから、誰でもかかるし、すぐに良くなるよ。とも説明された。「風邪なら長くても一週間病休か」だれかが言った。しかし、一か月経っても、二か月経っても吟醸君は帰って来なかった。悲しいことに、目まぐるしく忙しい毎日の業務の中に、吟醸君存在は皆から忘れられて行った。

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