自治の鐘とはなんだ。学校はすぐそこだ。もう近い。しかし無情にも自治の鐘が鳴り出した。これはまずい。走り出す。まわりには自分しかいないではないか。またやってしもうた。息が切れる。校門をくぐった時には、鐘はもう鳴りやんでしまった。完全にアウトだ。
ますますまずい。石段を駆け上がり、渡り廊下にある木製のロッカーに向かう。ここで、うち履きに履き替えるのだ。自分のロッカーの前に、美人が待っている。昨日も待っていてくれた。やばい。校風部の厳しくも本当は優しい石井さんだ。もう名前を知られてしまっている。だからロッカーもわかるのか。
「毎日遅刻ですね。もう少し早くおうちを出れないですか?」石井さんは言いたくなさそうに、伏目がちに義務的に注意する。校風部の役目なのだ。「はい、わかりました」。息をきらしながら義務的に返事をする。背がすらりと高く、こんな美人を困らせているのだから反発も出来ない。彼女は中学校のマドンナ的な存在だった。
にもかかわらず、非常にまじめで男子生徒とはほとんど口をきかない。そんな彼女と口がきけるのは、チャンスだったが事情が事情だ。双方とも後味が悪い。その後も何度も遅刻を重ねて迷惑をかけてしもうた。そのうち校風部の担当が代わったのか。「遅刻者に問う!」という挑発的インタビューを受けてしまうほど有名になった。校内放送に流れた。あてつけか。何が自治か!
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