クスリ漬け年金生活者は、ある日の帰り道、路傍に大きなチョコレートを見つけた。道路の真ん中に落ちていたのだ。包装が一か所だけ剥げて、茶色い中身がのぞいている。あたり一面に、ほのかな甘い香りが漂っている。見るからに美味しそうなチョコレートだ。クスリ漬け年金生活者は、ぐっと唾をのみ込んだ。
持って帰ろうかな。どうしようかな。大きくて大きくてポケットになど入らないよ。体の半分ちかい大きさなんだから。持ってみたけど、これまた重たくて、とても家まで持って帰れないよ。しかしこの大きさ、いいかおり。きっと果てしなく甘いよね。このまま、ここに置いていくのは、もったいないよ。
クスリ漬け年金生活者は諦めきれなかった。持ち帰れないほど大きなチョコレート。限りなく魅力的である。そこで思いついた。持っていたカサの先端でつつきながら、道をころがして家まで持って帰ろう。これなら重たくない。案の定うまくころがった。
けれど、思った以上に時間がかかる。ときどき、あらぬ方向へ飛んでいき遠回り。やがて家が近づくころには、包装は破れチョコレートがむき出しとなった。何回もカサの先端でつつかれ、それは原型をとどめないほど変形していた。しかし、無事玄関に入れることが出来た。叱られたが、努力を認められ新品のチョコレートを買っていただいた。
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