もちろんそのホテルあとらしきものは、我々の貸し切りである。部外者はいない。派遣された調理人だけが、数人しきりに動いていた。このホテルのテレビでビンラディン氏のテロを知った。入念な復讐計画とその緻密な行程には、我々も度肝を抜いた。地下鉄サリン事件の6年後のことである。
今回の工程はステラッド技術の習得が目的となっていた。ステラッドとは簡単に言うと、過酸化水素ガスプラズマ滅菌技術のことである。それまでのオートクレープ滅菌やガス滅菌、放射線滅菌に代わる新技術として当時注目されていた。それも外資系の会社が日本への売り込みのために、東北の山中に開発の拠点を置いたのだ。
そしてまた懇親会で度肝を抜いた。ステラッド技術陣になんと昔同じ組織で働いていた、こしやんがいたのだ。15年も昔のことだから向こうが覚えているかどうかはわからないが。工作員名簿が出されているから気づいているだろうか。私も1年ほどしか、その組織には在籍していなかった。
二次会まで行った同僚の話によると、一緒に働いていた新宿の本部から、新たな支部を立ち上げるために、故郷沖縄に派遣されたこと。そして支部の活動が軌道に乗ったころ、この外資系の別組織にヘッドハンティングされたらしい。組織の中枢は東京にあるが開発工場は秘密裏にここ須賀川にあり、彼は頻繁に新幹線で通っているらしい。人生、何が転機になるかわからないものである。
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