セイシンカ 危険度レベルⅤ 「危険度レベルⅤとはどの程度なんですか?」組になった先輩に聞く。「いちばん上のレベルらしい。俺もまだ3年目だから経験ないな」「でも見つけなくちゃな。地域住民に危害を加える前にな」これはまずい。めちゃくちゃ正義感の強い先輩と組まされてしまった... 2023.06.29 セイシンカ
セイシンカ 非常招集 非常招集がかかった。病棟に緊張が走る。週休、年休おかまいなしに全員が招集される。明けのスタッフは仮眠後、病棟に出勤するよう指示が出される。措置入院したばかりの男性患者のエスケイプ(逃亡)だ。夕食のコンテナを運び入れる際、女子スタッフを押しの... 2023.06.27 セイシンカ
セイシンカ 食べられたヤギ 毎年秋になると5匹いたヤギがなぜか4匹に減る。収容者の一人がそれに気づいていた。彼は60代前半の男で15年近く入院している。そして朝、昼、夕と必ずヤギ小屋まで行き、何匹いるか声に出して数えているのだ。15年間一日も欠かさずに。そして毎年、病... 2023.06.25 セイシンカ
セイシンカ カマ暴露療法 カマを手渡す時に、表情に変化がないかを確認して渡す。そして過去と同じ過ちを繰り返さぬように、声に出して確認する。「きょうはヤギの草を刈りに来ています。このカマは、今日は草を刈るもので、人の首を刈るものではありません」しもうた。間違えた。「今... 2023.06.23 セイシンカ
セイシンカ ヤギの草刈り 精神科閉鎖病棟では、二度と人を殺めることのないようにと、命の尊さを教えている。生き物を育てながら、毎日世話をすることで、愛情を持たせて命の尊さを学ばせるのである。そのためヤギを5匹飼育している。まだ秋ではないので、5匹全部残っている。人を殺... 2023.06.21 セイシンカ
セイシンカ 座敷牢からの救出 それは、はなれの土蔵だった。窓はすべてに鉄格子が打ち付けられており、出入り口の扉の小窓だけが開いていた。扉には外から大きな鍵が、ぶら下がっている。何歳から入れられていたのか、さだかではない。救出した時、千里は26歳。青白い痩せた青年だった。... 2023.06.15 セイシンカ
セイシンカ トリアージ 精神科研修医は1年の研修を終えて大学へ帰って行った。風のうわさによると大学を辞めて、姉と結婚したという。あとから来た後任の指導監督医が教えてくれた。誰にも知られていない遠くの街に引っ越すとのこと。研修医が大学に戻るのと時を同じくして、姉はも... 2023.06.11 セイシンカ
セイシンカ 勇二の世界 指導監督医は研修医のことで頭を抱えていた。患者を診るどころではなくなっていたみたいだ。勇二の掘ったほら穴は、見たこともないような深いものだった。呼んでも声も届かない。姿も見えない。これでは、プロでも戻っては来れまい。研修医と勇二は、深い、深... 2023.06.09 セイシンカ
セイシンカ 穴に落ちた研修医 私の目の前で穴に落ちてしまった研修医も知っている。助けようがなかった。患者は勇二18歳。彼は精神分裂病(当時の病名)と発達障害で入院していた。小学校を出たのかどうか、入院までの経緯はわからない。明るいし、よく話す。腕がへんなところで曲がって... 2023.06.07 セイシンカ
セイシンカ 穴に落ちてごらん こちらが手を滑らさなくても、中を覗き込んでいる時に、相手が近くまで来て中に引きずり込むかもしれない。こんな危険な職場では、怖くて働けない。ここに配属されたら、最初みんなそう思うという。でもある先輩が言っていた。「怖がらないで一度ほら穴に落ち... 2023.06.05 セイシンカ