そして今回の主人公、バニラ爺の登場である。バニラ製造会社を定年退職し旅を続けて御年78歳。小さなリュックを背負い、腰と膝の痛みに耐えかねて、しょっちゅうしゃがみ込んでいる痩せたご老人。TEOTIHUACANでは不幸にも滑落してしもうた。ダメージはかなりのものだったに違いない。
ふだん話しかけても、ポツリと小さな声で返事する程度。ところがブエノスアイレスでの夜会初日、アルコールが入ると人が変わった。見事な変貌ぶりでこれには皆驚いた。昼間は社長が主役、夜はこのバニラ爺が主役となる。声も大きいし場を仕切る。社長はバニラ爺からいじめられていた。
「俺はオマエのことが気に入らねえんだよ。社長がそんなに偉いのか」「そもそも旅行にビジネスクラスで来ることから、ちがうんだよ」みんなが心に秘めていたことを、ズバズバ口に出して言う。聞いていてスカッとしたが、一瞬不穏な空気に包まれた。そこであのチビの刈り上げおじさんの登場である。
愛嬌たっぷりの笑顔で間を取り持つ。絶妙なコンビである。「あんたは若いのに博学だね。感心した。」今度は金型工場の若手経営者に、話が向いている。夜会のあと、バニラ爺もアルゼンチンタンゴを見に、夜のブエノスアイレスに繰り出したというから、凄いパワーである。
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