やがていつのまにか吟醸君は通常勤務をこなすまでに回復した。皆も安心した。長期病休を取ったことも忘れ、普通に接するようになっていった。ただその年の忘年会は来なかった。やはりこころの闇を引きずっていたのである。復帰から1年くらい経過したころか。また吟醸君は予告もなく突然来なくなった。
うわさによると「鬱の再発」という。また3か月近く病休をとった。だが、勤務表を見るとボーナスの査定日である6月01日近辺だけは「年休」として処理されていた。会社もなんとか吟醸君のために、出来ることはしていたんだと思う。しかし、それも長くは続かなかった。次のボーナス査定日までには職場復帰した。だが同じ部署ではなかった。
配置された新しい部署には、正職員が吟醸君の一人しかいない。あとの4~5名は嘱託雇用または派遣社員である。いわゆる窓際ともとれる。なんとひどいことをと最初は思ったが、会社は彼のことを思い、再発しないように重責のある部署から異動させたわけだ。社の規定によると、診断書に基づき病休を適用、病休にも限度がある。
その場合さらに年休を使うことになる。ここまでは給与が出る。年休を使い切ると、いよいよ無給の欠勤扱いとされる。これが一定期間続けば、自然退職となる。これでも中小企業に比べればかなり手厚い福利厚生制度である。しかし彼は去って行った。「長いことお世話になりました。退職することになりました」と。しばらくして、民間の施設で働いているという噂を耳にした。
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