縁側一面に並べた、しなびた大根を呪文を唱えながら裏返す。まんべんなく日が当たるように。真冬の信州でも、風がなければ陽ざしは暖かい。そして日暮れとともにみかん箱にしまう。これを何日間も繰り返す。すると美味しいタクアンが正月に食べれるんだ。
それから、軒先にいくつもの渋柿を、皮をむきひもでくくってつるす。すると凍っては融け、凍っては融けを繰り返し、やがて正月が来るころには甘くなる。まるでカナダのアイスワインと同じ製法だ。これがクスリ漬け年金生活者の子供のころの、冬休みの日課だった。
餅は米屋が12月25日に配達してくれる決まりとなっていた。風呂敷1枚分くらいの大きさの、平べったい餅を、毎年10枚は注文していた。餅が届くともう冬休みだ。年の暮れにはお歳暮の塩じゃけを軒先に吊るす。海のない信州のお歳暮と言えば、「塩じゃけ1本」が昔からの風習だった。冷凍庫などいらない。外の気温は日中でも氷点下になる。
だから軒先に吊るした塩じゃけはカチカチに凍る。「今年は何本届いたゾ」数えるのが楽しみだった。それを正月にかけて少しずつ食べていく。だから少しずつ短くなっていく。さんがにちが終わるころには、ちょうど頭だけとなる。最後にはそれでだしをとる。お雑煮か七草がゆか。
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