第2ウチュウジン

セイシンカ

徳畑君24歳。浅黒く陽に焼けた風貌で筋肉質な好青年である。頭も良くすばしっこい。スタッフのすきをついてはよくエスケープを繰り返していた。彼には、いつからか私が宇宙人に見えるらしい。いつも私を指さして、笑いながら奇声をあげる。何を言っているのか、スタッフが紙を渡すと、カタカナで「ウチュウジン」と書く。

彼は当時、風疹児と呼ばれる障害者で、生まれつき耳が聴こえない。だから喋れない。可哀そうな境遇である。それに精神疾患も合併してしまい、落ち着かなくなると暴れ出して、閉鎖病棟への入退院を繰り返している。彼は市内で母と二人で暮らしていた。普段は母思いの優しい息子だったらしい。

今回は何回目の入院になるだろうか。季節の変わり目には落ち着かなくなり、奇声を発して家の中の物を壊したり、夜になっても自宅に帰らない日が続くという。その都度、警察に捜索願いが出されていた。今年もまた「うりずん」の季節を向かえた。普通の人でもおかしくなる季節だから、やっぱり徳畑君が来た。不穏な時は顔がひきつっていて、眼がつり上がる。笑いがない。すぐわかる。 入院するやいなや、いつものようにデイルームの椅子や机を蹴り飛ばして、何度注意してもきかず保護室に収容された。

彼は自分はウチュウジンであり、私も仲間の第2ウチュウジンだと信じて疑わなかった。私が風疹児の彼を可哀そうに思い、誰よりも熱心に接していたので「仲間」だと勘違いしてしまったようだ。私もいつの間にか、スタッフから「ウチュウジン」と呼ばれるようになっていった。熱心に接しているうちに、私も彼の世界に入ってしまったようだ。

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