この心臓は動脈硬化と石灰化がひどい。もちろんDissection(解離)を起こしたんだから当然だが。予想以上だ。うまくグラフトがつなげるか。石灰化の軽い場所がなかなか見つからない。やっとのことでなんとか縫合出来た。ところが今度は針孔からの出血が止まらない。ジワジワと出て来る。石灰化のせいだ。止血出来ない。人工心肺の使用時間が長引くほど、血液がヘパリン化されて止まりにくくなってしまう。
麻酔医が残酷にも「遮断時間90分経過」と機械的に報告する。執刀医が焦り出す。何をやってもうまく行かない。「血小板入れて!もうないのか!」「生血はまだか!」「グリュー準備して!」「タココンブ!」「アロンアルファーすぐ出せるか」心臓外科の手術場が修羅場と化すのは珍しいことではない。出血した血液はサッカーで回収して体内に戻すが間に合わない。準備した照射血はもう使いきった。
「交差試験だけでいいから血液取り寄せて!」外回りの手術場看護師は走り回る。器械出し看護師も、矢継ぎ早に要求される機械を渡すのにあわてる。心外の手術器械は種類と数が格段に多い。それを使うであろう順に準備しておくのだ。予定手術の場合は8:30患者入室に合わせ6:00から準備するのであるが、軽く1時間はかかってしまう。緊急手術となれば、器械を準備している間に手術が始まってしまうのだ。
さらに不測の事態が起きれば、器械を出す順番が狂う。使う順に準備した器械が、いったんごちゃ混ぜになってしまうと、言われた器械をその都度探さなくてはならない。そして焦ると針に糸をうまく通せなくなる。時間がかかる。こうなってしまうと最悪だ。なんとか血圧を下げることで、針孔からの出血はとりあえず止血することが出来た。閉胸後の心嚢ドレーンからの出血が気になるが。
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