しろちゃん

セイシンカ

勇二の世界

指導監督医は研修医のことで頭を抱えていた。患者を診るどころではなくなっていたみたいだ。勇二の掘ったほら穴は、見たこともないような深いものだった。呼んでも声も届かない。姿も見えない。これでは、プロでも戻っては来れまい。研修医と勇二は、深い、深...
セイシンカ

穴に落ちた研修医

私の目の前で穴に落ちてしまった研修医も知っている。助けようがなかった。患者は勇二18歳。彼は精神分裂病(当時の病名)と発達障害で入院していた。小学校を出たのかどうか、入院までの経緯はわからない。明るいし、よく話す。腕がへんなところで曲がって...
セイシンカ

穴に落ちてごらん

こちらが手を滑らさなくても、中を覗き込んでいる時に、相手が近くまで来て中に引きずり込むかもしれない。こんな危険な職場では、怖くて働けない。ここに配属されたら、最初みんなそう思うという。でもある先輩が言っていた。「怖がらないで一度ほら穴に落ち...
セイシンカ

ほら穴

いくつもの垂直なほら穴が見える。みんなほら穴の底にいる。ほら穴の大きさは声の届く浅いものから、底の見えない深いものまである。深いほら穴だと底は見えないし、声も届かない。ひとはふつう、見通しのきく小高い丘か平地にいる。とこらが、他人からの視線...
セイシンカ

ファンタジーな世界

たしか、セレネースとアキネトンはセットで筋注されていたと思う。社会から隔離された、その非現実的で限りなくファンタジーな世界は、朝のラジオ体操第1から始まる。申し送り前だったのか、あとだったのか、はっきりとは記憶にない。でも深夜勤だけだったら...
コキョウ

猟銃と姨捨山

久しぶりに出社(社会に出ること)すると、周りは事件の話題で持ち切りだった。故郷と事件現場が近いことから、あらぬ所で、あらぬ疑いが持たれていた。「事件があったのは、あんたの部落かい?」「あんた今までどこ行ってただ?」ブタの先輩が代表して聞いて...
プール

水中都市

プール漬け年金生活者は進化を遂げて、やがて水中人間となっていく。その朝は遅い。一番ゼミが鳴きやむ頃に起き出す。水中ウオーキングに人生のすべての活路を見い出しているので、地上での早朝ウオーキングなど、見向きもしない。というよりも彼らは、もう進...
プール

県警本部長

あとでわかったことだが、ブタの先輩はここいら一帯を取り仕切る、プール漬け年金生活者の集団の長(おさ)であった。よく観察すると、プールに来た年金生活者の誰もが、彼に頭を下げてあいさつしている。いろいろと相談したり、話し込んだりしている。スタッ...
プール

アイアンマン

「ブタの生体弁を入れている」と聞いて、なんとなくブタに見えて来た先輩は、水中を颯爽とウオーキングしている。水をかき分け、かき分け、となりのクロールよりも速い。水中ウオーキングの猛者である。そのあとを、おくれまいと2~3名がついて来る。まさに...
プール

プール漬け年金生活者

異次元の少子高齢化、令和の実態。今や平日の昼、スポーツクラブのプールは老人福祉施設と化している。デイケアセンターあるいはリハビリ施設とでもいうべきか。表示板も渋い。おもわず目を疑ってしまった。「便はトイレで」とか「パンパース使用をご遠慮下さ...