しろちゃん

ベント

年金生活者のシバオ君 5

やがてシバオ君は病気ひとつせずに、順調に年輪を重ねて行った。いつの間にか15歳を迎えた。人間でいえばカジマヤーである。獣医も驚いていた。「まめ柴はそもそも短命なのだが凄いね」毎年、ワクチン接種するたびに腰を抜かしていた。もちろん食事には気を...
ベント

年金生活者のシバオ君 4

シバオ君は毎年検診を受けて、8種混合ワクチンを接種していた。もちろん狂犬病の予防注射もだ。そして毎月フィラリア予防の内服薬を飲んでいた。ほぼ毎日、主人との散歩も楽しんだ。だから病気にもならず元気に一生を過ごした。家族の誕生日を一緒に祝い、一...
ベント

年金生活者のシバオ君 3

信州の山奥からやまんばが来た。92歳だ。こんなにも歳の差があって、はたしてシバオ君とうまく暮らして行けるのか。しかし杞憂に終わった。里に不慣れで孤独なやまんばをシバオ君が必死に癒してくれた。それも24時間つきっきりで。やまんばの虚ろな眼をシ...
ベント

年金生活者のシバオ君 2

シバオ君は家族みんなに愛されてスクスクと育っていった。庭に投げられたボールを一目散に得意げに拾って来たり、放課後は年長組と追いかけっこをしたり、自由時間は芝生に寝ころんで日向ぼっこをしたり、本当に幸せそうだった。毎朝のウオーキングにもかかさ...
ベント

年金生活者のシバオ君 1

クスリ漬け年金生活者にはかつて児がいた。シバオ君は0歳児の時に、「親こぼし学園」から今の家に引き取られて来た。何人もの児がオリの中で騒いでいる中、シバオ君だけが行儀よく、うつむいて親が来るのを静かに待っていた。何もしゃべらない。だから親にな...
プール

ただただ泳ぐ ただただ歩く

プール漬け年金生活者の朝は早い。雨が降ろうと、台風だろうと、津波だろうと気にしない。施設がオープンするならやって来る。いやオープンするものと信じて疑わない。確かめもしないで。とは言っても、オープン前は電話がつながらないから、確かめようもない...
1945

再会の街 舞鶴

舞鶴地方引揚援護局の当時の係官に話を聞くことが出来た。船名と上陸の日付がわかれば、厚生労働省に問い合わせて乗船名簿を確認できるとのこと。それに入国持ちこみ品も記載されているから、なくした行李の手がかりになるかもしれない。そう教えてくれた。そ...
1945

舞鶴地方引揚援護局

舞鶴地方引揚援護局は待っていてはくれなかったのだ。やはり79年は長すぎたのか。聞くところによると、舞鶴地方引揚援護局は役目を果たし終え、なんと65年前に閉局したとのこと。そして現在は舞鶴引揚記念館がその役目を担っているらしい。同じ東舞鶴にあ...
1945

岸壁の年金生活者 4

それで母92の命(めい)はどうなったのか。ふと我にかえった。そのために来たのではないか。行李をみやげに持って帰らねば。だが、振り返ると桟橋一面、人人人の波。沖の引揚船から小型船が次々と往復する。小さな桟橋は人人人であふれかえり、海に落ちる者...
1945

岸壁の年金生活者 3

ひっきりなしに、丸太を満載した大型トレーラーが何台も横をかすめていく。なんと舞鶴地方引揚援護局のあった敷地は、ベニヤの大工場と化しているではないか。跡形もない。工場からは白煙があがり、あたり一帯かぐわしい木の匂いが漂っている。その先だ。50...