バスに一人残らず乗り込んだ。添乗員が人数を2回指差し確認する。キャリーバッグも残らず詰め込んだ。補助酸素ボンベもCPAP器材も顔面マスクも確認した。満車だ。募集要項に「キャンセル待ち」の表示があったから当然だ。さすがに手すりにつかまっている、立ち席の客はいなかった。安心した。オーバーブッキングはなかったのだ。
観光バスだから窓が開かない。気のせいか、車内に加齢臭が漂う。これでは詰め込みすぎだろう。「満員御礼」ののろしを掲げた九勝バスは、北海道の大平原に向けて走り出す。広い道路が広大な大地の果てまで、どこまでも続く。さすが北海道。広いし人がいないから信号なんて一個もない。だからバスは全速で走る。
と思っていたが、走っていたのは高速道路だった。なんか空港自体が高速道路上にある構造なのだ。さあ今日はトマムザ・タワーに直行だ。約110㎞の行程だ。途中215休憩でサービスエリアに停車した。ここでも厳重な注意が添乗員から発令される。車両番号を記憶せよとの指令なのだ。委縮した海馬には無理な要求だつた。
自分のバスがわからなくなり、他のツアーのバスに乗り込んで別の目的地に行ってしまう、業界用語でツアーバス徘徊が近年頻発しているという。本人も周りもすぐには気づかずに、バスが走り出してしばらくしてから発覚するという。広い北海道、こうなってはもう絶望的である。皆左手の甲に九勝バスの4桁の暗証番号を書き留めていた。
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