セイシンカ

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座敷牢からの救出

それは、はなれの土蔵だった。窓はすべてに鉄格子が打ち付けられており、出入り口の扉の小窓だけが開いていた。扉には外から大きな鍵が、ぶら下がっている。何歳から入れられていたのか、さだかではない。救出した時、千里は26歳。青白い痩せた青年だった。...
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トリアージ

精神科研修医は1年の研修を終えて大学へ帰って行った。風のうわさによると大学を辞めて、姉と結婚したという。あとから来た後任の指導監督医が教えてくれた。誰にも知られていない遠くの街に引っ越すとのこと。研修医が大学に戻るのと時を同じくして、姉はも...
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勇二の世界

指導監督医は研修医のことで頭を抱えていた。患者を診るどころではなくなっていたみたいだ。勇二の掘ったほら穴は、見たこともないような深いものだった。呼んでも声も届かない。姿も見えない。これでは、プロでも戻っては来れまい。研修医と勇二は、深い、深...
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穴に落ちた研修医

私の目の前で穴に落ちてしまった研修医も知っている。助けようがなかった。患者は勇二18歳。彼は精神分裂病(当時の病名)と発達障害で入院していた。小学校を出たのかどうか、入院までの経緯はわからない。明るいし、よく話す。腕がへんなところで曲がって...
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穴に落ちてごらん

こちらが手を滑らさなくても、中を覗き込んでいる時に、相手が近くまで来て中に引きずり込むかもしれない。こんな危険な職場では、怖くて働けない。ここに配属されたら、最初みんなそう思うという。でもある先輩が言っていた。「怖がらないで一度ほら穴に落ち...
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ほら穴

いくつもの垂直なほら穴が見える。みんなほら穴の底にいる。ほら穴の大きさは声の届く浅いものから、底の見えない深いものまである。深いほら穴だと底は見えないし、声も届かない。ひとはふつう、見通しのきく小高い丘か平地にいる。とこらが、他人からの視線...
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ファンタジーな世界

たしか、セレネースとアキネトンはセットで筋注されていたと思う。社会から隔離された、その非現実的で限りなくファンタジーな世界は、朝のラジオ体操第1から始まる。申し送り前だったのか、あとだったのか、はっきりとは記憶にない。でも深夜勤だけだったら...