再び車両に乗り込む。バスは速度をあげてアイスロードをひた走った。いつもと違う。なにか寒い。息を吸うたび、空気が音を立てて凍る。それもそのはず。スマホのアプリは「-30℃」を表示していた。晴れたので、気温がグッと下がったのだ。ガイドが発電機を回しに行く。そして、皆はバスから降りた。
あまりの寒さに、一同はいったん山小屋で暖をとった。すぐだった。「オーロラが出ています!」ガイドの昨日とは違った、興奮した叫び。皆、我さきにと外に出る。その瞬間、空が静かに揺れ始める。緑の光が流れ、波打ち、まるで空が生きているかのようだ。言葉は凍り、ただ心だけが震えた。
皆の眼は、天空を漂う緑の光の帯にくぎ付けだった。ゆっくりと消えたり、また別の場所から現れたりする。やがてその光の帯がゆらめき始め、やがて大地に降りて来る。そして一同を取り囲んだ。極寒の大地で出会った、千年の光。オーロラは、見るものではなく、包まれるものだったのだ。
眼を疑うほどの、幻想的な時が流れた。やがて気づくと手の指の感覚がない。スマホのシャッターに凍り付いてしまっている。あわてて山小屋に逃げ込んだ。ストーブの周りでは、何人もが凍りついた指を融かしていた。でもそれ以上に、オーロラに遭遇できた歓びに浸っていた。私は、この夜を一生忘れない。

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