保護・収容

セイシンカ

やがて夜は更けて店の灯りがポツン、ポツンと消えていく。人通りがなくなる。午前零時を回ったころ、定期的に公衆電話で本部と連絡を取っていた先輩が、「自宅近くの喫茶店にいるらしい」との情報を持って来た。すぐに向かう。現場まで10分だ。喫茶店に着くと、すでに所轄のパトカーが到着しており、赤色回転灯を回している。

ほかのスタッフも続々と到着した。店の周囲を分担して逃げ道を塞ぐ。患者の保護・収容は病院の仕事。警察は現場で見守り待機。いきなり警官が出て行っては、患者が興奮して暴れ出すおそれもある。それに、相手は犯罪者ではなく、あくまでも患者である。警察が何もしていないのに動くのには早い。地域住民に危害がおよんだら出番となる。

やがて、主治医と年配のベテランスタッフの2名が店内へと入って行った。万一、店から逃げ出して来たら、力づくでも保護するようにと、周囲を取り囲んだ皆も緊張する。私もじっとしているのに汗をかいた。およそ30分後、患者も含めて先ほどの4名が現れた。主治医の説得に応じ、抵抗することなく保護されたという。

現地解散。患者は無事に病棟に戻り、セレネース筋注後保護室に収容。次の朝まで寝た。保護室から出てからは、持続点滴とされた。あの頃は今のようなインシデントレポートなんてないよ。今思えば、何があっても平和な世の中だった。

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