年金生活者 再上陸

プライベートビーチ

まだ油断は出来ない。ビーチまで岩場が続くからだ。岩の直下では大波が轟音とともの砕け散っている。水しぶきが全身にかかる。時間の経過とともに、確実に潮が満ちて来ているのがわかった。ここまで来て、滑って海中に落ちたら命の保証はない。ゆっくりゆっくりと進む。目前にエントリーしたビーチの白い砂浜が近づいて来る。あと少しだ。最後の岩を無事に乗り越え、白い砂浜を踏む

やったー!」「助かった!」「奇跡だ!」「信じられない!」しばらくは本当に信じられなかった。決して戻れないと思った。波高3mを超す大波なのに。16時間もかけて夜を明かし、干潮を待ったのが道を開いたのか。本当に奇跡以外の何物でもない。神は年金生活者にもう一度生きるチャンスを与えてくれたのだ。ありがたい。

ビーチにたどり着くと、どっと疲れが出て倒れ込んだ呼吸が苦しい。ハァハァ言っている。車の止めてある場所へは、ここから急な山道を500mも登らないといけない。もう限界だ。徹夜している私には、体力を使い切ってしまい、眼が回って動けない。その場で動けなくなってしまった。でも心からうれしかった

大雨が顔に当り気がついた。登らなければ。その場にいらないものは全部捨てた。リュック、ナイフ、ダイビングキャップ、尿入りのペットボトル、水中ライト、ウエストポーチ。そしてなんとか山道を登り始めた。足もとがフラフラしておぼつかない。何度も転んだ。そしてすぐには起き上がれなかった。一気には登れず何回も仰向けに倒れ込んで休んだ。眼前には大きな黒いチョウが舞っていた。

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