年金生活者は毒針も喰らう

ウミ

しばらく不漁が続いていた。何かいないか探したが海底にハゼくらいしかいない。しばらく食っていない。今日は何としても食材を持って帰らねば… そこに現れたのが岩陰にたたずんでいるバタフライチョウのように優雅に赤と黒の縞模様の羽をゆっくりと動かしている。素晴らしく美しい。でも羽の先に毒針を持っていることは知っていた。皆、恐れる猛毒のミノカサゴである。

ミノカサゴは全身に猛毒の針を持っているので天敵がいない。だから逃げることもなく優雅に漂っている。しかしクスリ漬け年金生活者が空腹となれば、話は違って来る。捕獲は危険を伴うが、針を落としてしまえば美味しくなべに出来るのだ。抗不安薬のおかげで、刺されることへの恐怖はみじんもない。ためらいもなくヤスを胴体にぶち込む。一発的中だ。ヤスが魚体のど真ん中を貫通した。

ヤスにつけたまま、安全のため岸に上がる。そしてミノカサゴをペアンでつかみなおし、ヤスから注意深く引き抜く。刺されないようにしっかりと保持して、全身の毒針をハサミで根こそぎ切り落とす。頭からしっぽまで。一本でも残すと後で刺される魚が死んでも毒は生きている。刺されると猛毒だ。ここは注意したい。見ると残った胴体は、見た目の可愛らしい魚と変わらない。やわらかくて鱗も薄い。旨そうである。

波も荒れて来たので漁は切り上げた。結局この日は大型のミノカサゴ2匹を確保した。久しぶりのごちそうである。白みそでなべにした危険な魚だけあってさすがに美味である。ごはんが進む。こうしてクスリ漬け年金生活者は今日もたくましく生きていく

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