クスリ漬け年金生活者と浜辺

プライベートビーチ

気づくと呼吸も速いし脈も速い。このままでは体力を消耗してしまう。私は冷静になるために、その場にあおむけになった。そして眼を閉じて深呼吸を繰り返した。「ここは富士山の樹海ではない。歩いて入ったのだから、必ず歩いて出られる。それに出口の正確な方向もわかる」決して焦らないようにと、自分に言い聞かせた。

心が落ち着いた。もう少しだ。時計を見ると19:00をまわっていた1時間以上もジャングルをさまよっている。ジャングルもまた怖い。どうしようか。そして波の音が最大限になった時、最後の茂みを抜けると白いビーチがみえた。助かった。今度は、私を襲った大波が私を救ってくれたのである。何とも皮肉なものである。人間は、こうも容易く自然にもてあそばれているのか。

ビーチと密林の境界の砂浜に私は座り込んだ。そこはペットボトルや空き缶や漁具などが散乱していた。夜の海は真っ黒い海で、白波だけが横一列にならび、まるでキバを向いているようで怖かった。波高は3mどころではなくなっていた。さっきまで小雨だったのだが、急に雨足が強くなった。

私は木陰に避難した海路も陸路も絶たれて、どうすることも出来なくなった。普通であれば恐怖と絶望感に支配されるはずだが、私は疲れ切っていたので、すぐには現実を理解出来ず、その時は恐怖と絶望は感じていなかった。「今夜、浜で一夜を明かさないといけないかな」くらいにしか思っていなかった。

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