USS Bowfin SS-287 はナモ103船団を沖縄から追尾し悪石島から6マイルの海底で待ち伏せしていた。海底だから台風の影響はほとんど受けない。そして射程内に入ると急浮上、船首発射管から魚雷6発を発射。反転して船尾発射管からも魚雷を発射した。このうち3発の魚雷が対馬丸を直撃した。対馬丸は大爆発を起こし炎上して沈没した。
石丸寛治は船長という海の男であるが故、その想像をはるかに超える悲惨な地獄絵図が見えた。泣き叫ぶ学童らの声。みなを探す引率教師の声。台風の中、木片につかまりながらも、力尽きて波にのまれ海中へ沈む子ら。ナモ103船団の暁空丸、和浦丸、護衛艦の蓮、宇治は学童らを救助することなく全速力でその海域を後にした。ウルフパックを恐れたのである。だから誰も助けは来なかった。遺体は無残にも悪石島に流れ着いた。
そして船長石丸寛治はなんと昨日から下痢をしていた。イワシが腐っていたのだ。しかし一刻も早くこの魔の海域を離れたかった。便所に行っている暇などない。台風が目前に迫り三角波が船を襲う。最も危険な海域だ。船長石丸寛治や操舵員に緊張が走る。便がまた出そうになる。必死で我慢する。額から大粒の汗が噴き出る。人生とは悪いことが重なるのが常である。こんな大嵐に下痢と腹痛とは。
大波が近づくとその方向に船首を向けなければ船は横波を受けて転覆する。そしてその大波を全速力を出して登るのだ。大波を登りきれなければ即沈没である。また同時に便がしたくなっても屁だけにとどめなければならない。中味まで出してしもうては、船長石丸寛治も即沈没である。両方ともかなりの技術を要する。「日本海のど真ん中でたいへんなことになってしもうた。イワシは喰うべきではなかった。早く家に帰りたい。」船長石丸寛治は心の中で叫び続けた。
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