年金生活者魔海からの脱出

プライベートビーチ

9:30なんと、はるか沖の彼方に米粒くらいの定期船が見えた。遠くで点のようにしか見えないが、北へと進んで行く。私は浜に出て大きく手を振り続けた。双眼鏡でこちらを見てくれたら発見される。そんな距離だった。約10分間だっただろうか。船は針路を変えることなく、視界から消えようとしていた。ここは入り江になっているので視界が狭いのだ。

私は視界から逃すまいと、船を追いかけて海にまで入り手を振り続けた。腰のあたりまで海に出た時、右の岩場を見るとなんと潮が引いて、なんとか岩場づたいに歩けそうな状態であることがわかった。偶然の発見である。これなら行けるかもしれない。瞬間的に海に出る決断をした。

すぐに準備をしようと浜に戻る。ところがウエットスーツの背中のジッパーがヒモを引いても上がらない砂が挟まっているのだ。海中に背中から飛び込み砂を流してみる。それでも上がらない。何度やってもダメだ。時間が来る、もうこのままで行くしかない。水中マスクにくもり止めをたっぷりと塗る。途中で塗りなおしている時間なんかない。

破れかけの手袋をつけ、しっかりと岩をつかみながら、岩場づたいに歩き始めた。外海に出ると、足もとまで大波がかかる。足を取られないように、その時は動きを止めて岩にしがみつく。足もとまでなら何とか耐えられそうだ。しかし、足を滑らせて岩場から落ちたら命はない。大波にさらわれる。昨日海に落ちたところまで来た。まだこれだけか。岩場はコケが生えていて滑りやすい。だから気は焦るが、速くは進めないのだ。

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