092幽体 翔んで引揚げ船に

ブレイキング

092幽体DDTをかけられながらも引揚げ船内にいた。その船長石丸寛治海図天候を気にしていた。台風が進路に接近しているのである。出航することに不安を感じていた。船乗りとしてのカンである。船は片道燃料しか積んでいない。しかも推定定員2倍近い引揚げ者を乗せている。そもそも貨物船を即席に改造しただけだから、定員なんてないのだが。

喫水線をはるかに超えて、半分水中に沈み込んでいる。この船の重さで通常の燃料の量で舞鶴までたどり着けるのか。台風避難のために進路変更する予備燃料はない。しかも半分沈んだ船で台風の荒波を乗り越えられるのか。石丸寛治には初めての経験だった。しかし悲惨にも出航命令が下された。次の船入港出来ず、沖でこの船の出航を待っているのだ。しかもあと1時間燃料が切れるらしい。

燃料が切れれば入港どころではない。漂流して沖に流されてしまう。たくさんの引揚げ者が次の船を待っている。092幽体を乗せた船は出航した。石丸寛治は出航の汽笛を鳴らそうとしたが、壊れていて鳴らなかった。外洋に出るともう波は荒く誰も立ってはいられなかった。操舵室乗組員だけが必死に船の針路を保っていた。甲板には次から次へと大波が襲う。海水甲板への通路から下の船内流れ込む

通路側に近い引揚げ者全身ずぶ濡れになっている。しかし揺れがひどく、前へ後へ右に左にと絶え間なく体が転がりどうすることも出来ない。トイレはなんとその甲板上一か所あるのみ。そもそもが貨物船だから。トイレに行くのは命がけ。それも全身ずぶ濡れになる。そうなったら寒くて命がない。そんな中乗組員はすごかった。さすが海の男全身ずぶ濡れになりながらも、必死に皆に食料を配ってくれた。

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