隣の乗員が叫び始めた。その隣の乗員は、うつむいて低くうなり声をあげている。一番端のこどもは、こともあろうに泣き始めている。この体勢はきつい。グラビティがモロに全身にかかる。なんとかしてくれ。係員の合図があった。一瞬、私は命綱を切るのをためらった。怖かったからだ。
時間が過ぎて行く。あとから思うと、「乗客に命綱を切らせる」というのも、なかなかの演出である。よく考えられているアトラクションではないか。ただ機械的に落ちるのではなく、乗客が自ら恐怖を作り出すのである。だからこそ、恐怖が盛り上がる。そして、ついに命綱を切ってしまった。
解き放たれた瞬間、視界いっぱいに広がる緑と青空へ一気に飛び出す感覚。風を切る音と、重力の揺さぶりが全身を包み込み、思わず声がこぼれる。全身の血が噴き出しそうになる。かなりの加速度だ。ハーネスと固定器具が音を立ててきしむ。体が飛び出さないように、押さえつけてくれているのだ。
反転角90度で、一瞬無重力状態が訪れる。なんと宙に体が浮いた。その直後、また強力な加速度が、今度は逆方向に全身を襲う。怖さと爽快感が交錯するこの一瞬は、日常では決して味わえない純度の高い“生きている実感”だった。揺れが落ち着いた後も、しばらく鼓動は収まらない。地に足をつけたとき、世界が少しだけ違って見えた。そんな余韻すらも、このアトラクションの魅力の一部なのだ。

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