バスは夕暮れの街を南へと高速で走りぬけて行く。乾燥した台地を砂煙を上げて。やがて建物もなくなる。砂漠の中に、木々やヤシの木がポツンポツンとある程度。並行して鉄道が走るが、今日は列車1両も目にしていない。黒い衣装を着けた二人の中年男性が道路の反対側で何か話している。エジプト人はほりが深く、肌の色も浅黒い。でもなぜかのんびりしていて、優雅に微笑んでいる。傾いた日差しが、彼らを横から明るく照らし出し表情がよくわかる。
さっきすれ違った女性と子供も微笑んでいた。それぞれの一日が垣間見える。田舎だからか。平和な国に見える。民家がポツンポツンと点在する。ここまで来るとナイルの水は青い。昔の蒸気船も見える。この国は昔のものを大切にするのか。さっき降り立ったルクソールの空港にも、インディジョーンズに出て来るような複葉機があった。
バスは各国のツアー会社がチャーターしているが、ここを走る時は安全のため国が違っても車列を組む。コンボイ方式と呼ばれている。そして先頭車両と最後尾車両に政府の武装警官が乗り込む。大きな銃を持って一番前の席に陣取り前を見張る。
90キロ近い高速で走るのにも理由があった。相手に追いつかれるスキを回避するらしい。広大な砂漠では治安が悪いのか。アラブの春以降、政権が安定していないのか。観光地ではよくテロも起きるらしい。でも歴史の中に入って行くのには、何も怖いものはない。バスの揺れに身をまかせると、4500年前の世界が見えて来る。4500年前もこの大地。この香りだったのか。
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