今年も成城学園通りの桜並木が満開をむかえる季節となった。向ヶ丘遊園から多摩川を渡り、世田谷通りを都心向けに走る。マツダコスモの13Bロータリーエンジンは快調だ。車内には矢野顕子の「春先小紅」のサウンドが響く。やがて左カーブの上り坂にかかる。
坂の途中、左手にすかいらーくがあった。ドラマチックコスモのドアを開けると、初夏の心地よい風が全身をつつんだ。桜の花びらも舞う。ほのかに甘い香りが漂っていた。昼時のピークを過ぎたので、駐車場は空いていた。すかいらーくは昭和を代表するファミリーレストランの老舗だ。
車社会が普及するにつれ、郊外に駐車場完備のファミリーレストランが、家族連れをターゲットに続々とオープンしたのだ。だが、ここ世田谷の成城学園通りのすかいらーくは、高級住宅街だけあってかなり客層がちがった。まず車がちがう。ゴルフ・BMW・メルセデスのクーペは普通。アロファロメオやプジョーと続く。
ロールスロイス・ゴーストも見たことがある。遠慮がちに並ぶ国産車はというと、ソアラ・スカイラインGT-R・フェアレディZ・クラウン・デボネアくらいか。乗って来る人もちがう。平日の昼だから子連れはいない。着飾ったご婦人たちばかりだ。落ち着いた雰囲気のこの時間のこのレストランが好きだった。「優雅な時間」を共有できるからだ。あの真っ赤なコスモでなければ、通えない場所だった。
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