「今からでは、走って園まで行かなくては間に合わない。神父さんにおこられる。大ピンチだ!」そんなとき、満を持して登場したのが、初めて見る黒くて大きなバケモノである。ものすごいうなり声を上げる。これが華々しいメグロのオートバイの登場シーンである。
建設会社に勤める、あけみちゃんのパッパが乗っていたのだ。通勤途中で園を経由する、手はずらしい。あけみちゃんのパッパがエンジンをかけると、黒い煙を吐き出し、「バリッバリッバリッ」と、ものすごい爆音が大地に響いた。今にも跳び上りそうに、車体がブルブルと震えている。最初はこわくて近づけなかった。
あけみちゃんが燃料タンクの上に、クスリ漬け年金生活者が後部シートへ座る。「しっかりつかまってろよ。」あけみちゃんのパッパは、そう言ったかと思うと右手でスロットルを、おもいきり回した。黒いバケモノは、けたたましい唸り声をあげて跳び上った。
車体は急加速した。強烈なメグロのGがかかる。さらに強風が容赦なく全身を襲う。振り落とされそうで、慣れるまでは本当に恐怖だった。他人の背中にしっかりとつかまるしかなかった。まわりの景色が、今までに見たこともない速さで後ろに消えて行く。アッという間に、いずみ園に瞬間移動していた。
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