クスリ漬け年金生活者と灯台

もしかして、満潮が近づいているからなのではなくて、波高がより高くなって来てしまっているのではないか。イヤな考えが支配した。明朝起きて、波高が今日よりもっと大きくなっていたらどうしよう。完全にＯＵＴだ。戻れない。人生終わりだ。抜き差しならない、本当に現実の命の問題となって来た。

これは夢だと願いたいが、現実だ。真っ暗闇のビーチで一人、脱水状態に耐えながら夜を明かしている。口の中の唾液がなくなりネバネバしている。いつまでもつか。季節がもう少し前の春だったら、ずぶ濡れで寒くてこごえているだろう。低体温症になっていたかもしれない。６月でまだよかった。

上空でまたジェット音がする。じゃあまだか。日付は変わっていないのか。時間は少しも進んでいない。それともジェット音ではないのか。すぐ音が途切れる。ジェット音なのか、大波が沖のサンゴ礁に当たる「ゴー」という音なのか、段々区別出来なくなって来た。大波の音が大きくなってジェット音に、似て来たのか、それとも私の意識がもうろうとして来たのか。

一度浜辺一帯がサーチライトに照らされた。ダイビングキャップを眼の上に置いていても、わかるほどの光量だった。木々の影が出来るほどの、一筋の光が入って来たのだ。私は飛び起きて浜に出てみたが、それは救助船でも、救難機でもなく、対岸の灯台の光だった。がっかりした。その後約２時間おきにこちらを照らした。しかし灯台と知ってからは、浜に出るのは体力のムダと、あきらめるしかなかった。